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第1話 旅の交差点

2013–08–07 (Wed) 05:38
〜あらすじ〜

ってな感じで前回のあらすじがここに載るんだってさ。


「どうしてもっと早く起こしてくれなかったのっ!?」

わたしは叫んだ。
部屋にある大きな窓からは朝日が差し込んでいる。
隣には綺麗な夜色の髪が日の光に輝き、

「お、起こしましたよぉっ!」

その持ち主であり、わたしの響友(クロス)であるスピネルが、同じ声量で叫んでいた。

----

ここは界境都市・セイヴァール。
さまざまな世界の住人たちが共に手を取り合って暮らす街。
街の中心部は円形の湖に囲まれていて、その内側と外側の北東が市街地になっている。
わたしはその湖の外側のちょっと市街地から離れた場所にあるカフェで暮らしている。
緑や湖が豊富で、キレイな街。わたしは気に入っている。

わたしは幼い頃にスピネルと出会って、このセイヴァールで召喚師として勉強を続けてきた。
そして、見事に学園を卒業。晴れて調停召喚師になったわたしは、スピネルと一緒に毎日いろいろな任務で忙しい日々を送っている......

というのが、さっきまでのわたしの寝言。
で、今日は早めに来るように言われてたんだけど...ご覧の通り。

----

「あら〜?今日はずいぶんと、せわしないのねぇ」

急いで出かけようとするわたしに、おっとりとした声が聞こえてきた。
このカフェの大家さんのものだった。
あ、カフェに住んでるって言ったけど、実際はカフェの倉庫があったところに住まわせてもらっている。
だから、わたしにとってこの人は大家さんなのだ。
わたしは挨拶で返す。

「大家さん、おはよう!」
「お、おはようございます......!」

わたしの響友も挨拶を返した。
大家さんはいつも通りの長い茜色の髪、赤みがかった肌、セクシーな衣装だった。
わたし、ちゃんと服装整えたよね?寝ぐせとか、ついてないよね?

「うふふっ、もうすぐお昼の挨拶のほうがふさわしい時間になるわよ?」

大家さんに言われた。わたしは苦笑するしかない。

大家さんのその頭からは2本の曲がった黒い角が生えている。
そう、大家さんは悪魔なのだ。
悪魔といっても悪い人というわけではなく、むしろこの街にいる悪魔は人と共存できる悪魔ばかりだ。
ただ、悪魔らしくたまに毒のある言葉は吐くんだけどね。
あとそのスタイルは悪魔の特権なのか。ずるい。
その大家さんがまた口を開く。

「そうそう、またお家から小包が届いてるけど?」
「預かっといてください、仕事終わったらとりに来ます!いこっ、スピネル!」

そう言って、急いでいるわたしはわたし宛ての小包を大家さんに預けた。
実家からの小包なら、後回しでも大丈夫だろう。

「はい、姉さま!」
「行ってらっしゃい。列車に気をつけてねぇ」

はーい、気をつけます。
大家さんの見送りを受けて、わたしたちはカフェを出た。

----

セイヴァールの北東に位置する繁華街・セイヴァールアベニュー。
いつも大勢の人でにぎわっていて、わたしもよく訪れる。
遠くに見えるナギミヤ市遺跡も、いつもと変わらぬ有様だった。
今日は青空、いい天気。町並みはいつもより活気づいている気がする。
そんな活気づいた町並みの中から、

「セーンパーイ!」

ひときわ大きな声がした。この声は聞き覚えがある。
わたしは声がした方向で目をやると、

「やっぱりセンパイだ!おはよーございます!」

うん、やっぱりルエリィだった。
彼女はわたしが卒業したセイヴァール響界学園の学生で、わたしのことをセンパイって呼んでいる。
赤い大きな帽子に学園の制服。この学園の制服は胸までが白、胸から下が赤で、服とスカートの部分が一緒になっている。楽だ。
髪にはピンク色の動物の髪飾りがついている。

「すぴちゃんもおはよー!今日もかわいいねっ」
「あ、ええと、おはよう、ございます......」

スピネルのこれは照れてるんだよね?それともルエリィが朝からこんなテンションだから圧倒されてるだけかな...?
ってそうだ、もうすぐお昼になるんだっけ。じゃあやっぱり照れてるんだ。スピネルはわたしより早起きだったし。

「あはは、やっぱりルエリィだった。おはよう、今日も元気だね」

わたしはいつものように挨拶を返したつもりだったけど、

「はい、今のところそれだけがとりえですから!
センパイはどうしたんですか、こんな時間に会うなんて珍しいですよね。
今日はお休みの日だったりするんですか?」

手痛い一撃が返ってきた。

「えへへ、大事な仕事というか、呼び出しは受けてるんだけどね......」
「ふむふむ、それで?」
「......いや、まあ、なんというか、ね」

わたしは目をそらした。ルエリィの視線が痛い。

「ぬ、ぬぬぬ?この、あからさまにあやしい目のそらし方」

やめて。それきっと図星だから。言わなくていいから。

「さては、また、寝坊しましたね?」

ううっ、だよね。ごまかせないよね...

「......もー!しゃきっとしてください!
センパイは、あたしの目標なんですから。いつでもステキな人でいてほしいんです!」
「いやぁ、それはどっちかというと、目標にする人を選び間違えてるような.......」

苦し紛れにそう返す。

そう、ルエリィはわたしのことを目標にして慕ってくれている。
だからできるだけ、あんまりかっこわるいところは見せたくないんだけど...

「責任をひとにおしつけるのは、あんまりかっこよくないです」

...あはは...苦笑いしかできないや。

その時、

「ルーエリィー!」

別の声が聞こえた。
ルエリィのお友達かな?ルエリィも声の主に気がついたみたい。

「あ、ノイちゃんおはよー!」

うん、やっぱりお友達だった。
この子を待っていたみたいで、わたしに別れを告げると意気揚々と学園に向かっていった。
ノイちゃんありがとう。できればもう少し早く来てほしかったな。寝坊してるわたしが言えたことじゃないけど。

「むー......やっぱり、あの人、少し苦手です」

わたしの響友が口を開いた。面食らってたんだ。わたしの予想は外れた。

「スピネルはおとなしいからね。あの元気は見習ってもいいんじゃないの?」
「そうじゃなくて......話をするときの、姉さまとの......」
「ん?なあに?」

最後の方、口を籠らせてたから聞き取れなかったな。

「なんでもない、です」

何か言いたいことがあったのかな?
ま、それは後で話してくれるかもしれないし、何よりわたしたちにはあまり時間がなかった。
スピネルの急かしもあって、わたしたちは目的地に向かった。

----

異世界調停機構(ユクロス)。
これがわたしの所属している組織で、セイヴァールの中心に位置するこの本部がわたしの目的地だ。
異世界調停機構は世界の召喚師の総本山らしい。詳しいことはわたしには分からないけど。
ロビーは広く、しゃきっとした内装ながら、天上からは太陽の光が差し込んで暖かい雰囲気だ。
中央の柱には、異世界調停機構の紋章が飾られている。その下に剣みたいな模様もあるんだけど、なんだっけな。

とにかく、わたしはそのロビーに駆けこんでいた。

「間に......合った!」

わたしが勝利の文言を口にしたところ、

「「まにあったー」じゃありません」

管理官さんの声がした。

管理官さんはその名の通り、あたしたちの担当管理官、つまりマネージャーさんだ。
なんでも機械人形らしい。亜麻色の長めの髪と瞳、その瞳には眼鏡がかけられている。
わたしはいつもの彼女に気にせず挨拶をする。

「あ、管理官さん。おはようございます」
「はい、おはようございます。......あまり早い時間じゃありませんけど。
ジンゼルア総帥は、とっくにお部屋であなたをお待ちしているんですからね?」

ああ、やっぱり......間に合ってなかったみたい。
ちなみにこのジンゼルア総帥がわたしを呼び出した人。この異世界調停機構のトップ。すごくえらい。

「まったく、もう。ジンゼルア総帥にお声を掛けていただいて、遅刻して現れるなんて、そんな召喚師、セイヴァール中を探しても、あなたぐらいしかいませんよ?担当管理官の私の立場とかも、少しは考えてください」

いや、管理官さんの立場も重要なんだね。あはは...
今日苦笑いばっかりだなわたし。まぁ寝坊した日はそんなもんか。

「ほら、はやく行ってください。これ以上総帥をお待たせしてはダメです」
「はい、行ってきます」

切り替えの早い管理官さんで助かった。わたしやっぱりこの管理官さん好きだな。
管理官さんに見送られて、わたしたちは総帥の部屋に向かーーー

「とと、その前に、ひとつだけ」

ーーーおうとしたところ、管理官さんに呼び止められた。なんだろうか。

「......少なくとも、寝ぐせくらいはとってから行ったほうが、いいですよ」

うわあ、やっぱりついてたか。
あ、ということはルエリィにも見られてたのか。うう......

わたしは慌てて寝ぐせを直してから、総帥の部屋に向かった。

----

「......来たな。待っていたぞ、二人とも」

わたしたちはしっかりノックをして、許可をとってから入室した。
寝ぐせは結局手櫛では取れなくて、お手洗いでスピネルに整えてもらった。
部屋に入った私たちへのジンゼルア総帥の第二声は

「まずは、そこに座れ。いま、茶をいれる」

だった。わたしは少々戸惑いながら返事をした。

部屋はよくある応接室のような形で、テーブルを挟んでソファが1組、その奥に大きな机とイスが見える。
わたしたちはソファに座った。
正面の棚にはいくつかのメダルや勲章、大きな剣も飾ってあった。
あ、あそこに総帥の肖像画も飾ってあるね。
わたしたちの後ろ側には本棚があった。もちろん真面目な本ばかりだったけど。

「え、ええと、特別任務があると聞いてきたんですけど」

緊張に耐えかねて、わたしは訪ねた。
偉い人の前ってのは、それだけで心臓に悪い。すると

「......」

目の前に、女の人が出てきた。

誰かな、この人。初対面なんだけど。
髪は黒髪で前をパッツン、後ろはツインテールになっている。
赤い帽子と赤と黒の服の胸元にある紋章は......なんだろう、やっぱり見たことがない。
そしてその胸!大家さんより大きいよこの人なにそれずるいよ!悪魔なのかと思ったら角はなかった。
わたしが初対面の人の胸に嫉妬しはじめた時、総帥が帰ってきた。

「イェンファ殿、こちらの二人が先ほど話に出た召喚師と響友だ」
「......はい」

なぜか怖い目で睨まれた。わたしが嫉妬してたのバレた?

イェンファか、なんか変わった名前だな。そう思っていたところ、総帥が紹介を始めた。

「こちらは【警察騎士団(シルヴァリエ)】の本体から特務を帯びてこの街へとやってきた、特務騎士のイェンファ殿だ」

警察騎士団(シルヴァリエ)。
『「国家」ではなく「人々」の平穏を守るために活動することを基本理念にした世界規模の警察組織』
......とかわたしの親友が説明していた。
わたしにはこれに所属するアベルトという親友がいる。けどこの人はやっぱり知らない。
でも、警察騎士団の本体で、しかも特務騎士っていうことは.....相当のエリートなのかな...?

「よろしくお願いします」
「え、あ、はい、こちらこそ」

私がそんなことを思っていると、向こうから挨拶をしてきた。慌てて返す。
わたしの響友も、

「......お願い、します......」

やっぱりどこか近づきにくいみたい。なんというかオーラが出てるよね。

わたしたちが窮していると、総帥がまた口を開いた。

「では改めて、特別任務を言い渡す」
「......はい?今、ここでですか?」
「そうだ。これからしばらく、君にはイェンファ殿の捜査に全面協力してもらう」

......え?それだけ?

「それだけだ。復唱は?」

あれ、わたし今声に出てたっけな。
それとも顔に出てたかな。あ、はい。と返事をしてから、復唱する。

「調停召喚師アルカ、これより特務騎士イェンファの捜査に協力します」
「く、響友スピネル、同じく特務騎士イェンファの捜査に協力しますっ」
「よろしい」

こうしてわたし、召喚師アルカは、イェンファさんの捜査に協力することになった。

----

「それで、その、イェンファさんの特別任務というのは具体的にはどういう?」

わたしはイェンファさんに聞いた。捜査に協力するといっても、何を捜査しているのか分からない。
彼女の口から言葉が発せられる。

「極秘よ」
「まあ、そうでしょうけど」
「極秘だから、話せない」
「なるほど、極秘だから話せない。筋が通ってますね、納得です。......って、そうじゃなくて!」

極秘だからと何も教えてもらえないのでは協力のしようがない。
その旨を伝えると、彼女は渋々口を開いてくれた。

曰く、彼女の任務は簡単に言えば人探しということ。
曰く、探している人物は危険人物ということ。
曰く、その人物はセイヴァールにゆかりがあるということ。
曰く、もしここにその人物が現れれば、何らかの事件に関わってくるだろうということ。

「そのため、この街の召喚師の任務に随行し、起きる事件をそばで確認していきたいの」

ということまで教えてくれた。最初から極秘だなんて言わずに素直に話してくれればいいのに......
一通りイェンファさんが話した後、総帥が言った。

「と、いうことだ。アルカ君は、これまで通りに召喚師として任務をこなしていればいい。
違ってくるのは、イェンファ殿がそれらの任務に同道するということ。
そして、いざイェンファ殿から協力の要請があった場合、それに従うこと。その二点だな」

つまり、わたしについて回ることが捜査になるってこと?

「その点も、あなたが気にするところではないわ」

あれ?やっぱりわたし、声に出てる?
スピネルに小声で確認してみたところ、

「姉さま、顔に出てます。顔に」

とのことだった。

「さて、話がひと段着いたところで、改めて茶を楽しむとするか。
今日のため、特別に用意しておいたとびきりの茶菓子もあるのだよ」

ちょっとナイーブになっていたわたしに、ジンゼルア総帥はそう言った。
わたしたちはお茶会を楽しんだ。すごく緊張したけど......
寝ぐせ、気づいてよかったよ。ありがとう管理官さん。

----

おなかの中がたぷたぷだった。
総帥って、どうにも不思議な人だよね。お茶が大好きって点だけはとてもよく分かるけど。
わたしとスピネル、そしてイェンファさんはロビーまで戻ってきていた。

「あ、改めて、よろしくお願いします。特務騎士さん」
「............」

見られてる。イェンファさんに。すっごく。
いてもたってもいられず、わたしは頼れる響友と小声で会話する。

「な、なんだか、わたしたち、すっごく見られてない!?」
「ななな、何か失礼なこととかしちゃいましたか!?」

わかんないよ......
うん、前言撤回。そこまで頼れなかった。わたしたちがオロオロしていると、

「......イェンファ、よ」

イェンファさんから話しかけてきた。

「人前でまで「特務騎士」なんて呼ばれていたら、逆に任務に支障をきたしかねないわ。
だから、名前で呼び捨ててくれてかまわない。言葉遣いも、気にしないでいいから」

そんなことを言ってきた。わたしとスピネルは顔を見合わせてから、

「......そういうことなら、遠慮なくそうさせてもらいます。
......じゃなかった、そうさせてもらうね」

そうさせてもらった。
よかった。わたしの中でいくらか緊張が解けた。

「わたしのことも、アルカでいいから。で、こっちが......」
「響友のスピネルです......」

これで少しは話しやすくなったかな?
そんな希望をわたしたちが抱いていると、

「............」

うん。またすっごく見られてるね。
うーん、どうしよう......

「それじゃ、行きましょうか」

するとまた、イェンファさんが、じゃなかった。イェンファが話してきた。
どこに行くのだろうか。わたしが訪ねると、

「あなたの行くところに、よ。何か任務は受けてないの?」

うーん、他に任務は受けていない。

「今のところは、特にないかな」
「だったら、そうね、あなた、この都市には詳しい?」
「......それは、まあ......けっこう長いこと住んでるし......」
「よかったら、案内してほしいところがいくつかあるの。
昨日ここに来たばかりで、まだ右も左もわからないのよ」

なんだ、そういうことか。
特務騎士だってやっぱり人間だったんだね。ちょっと好感度が上がった。
自分の目と足でこの都市を知っておきたい、とのことだった。
そういうことなら断る理由もない。それでもわたしたちはまだ少しおどおどしながら、建て物の外に出た。

----

「まず最初に、ここ......異世界調停機構の本部、ね」

ここは異世界調停機構の本部から少し離れた、召喚師通りと呼ばれるところだ。
異世界調停機構の本部の近くに住んでいるのは当然召喚師で、通りを歩く人も当然召喚師が多い。
ストレートなネーミングだと言えた。

そういえば、イェンファは召喚師について詳しいのだろうか?確認してみると

「私のいる部隊は、少し立ち位置が特別で、召喚師のいる部隊からは独立しているのよ。
だから、詳しいことはほとんど何も知らないの。一通りのところだけでも、お願いできる?」

とのことなので、わたしは召喚師についての説明を始めた。

わたしたちの住むこの世界の周りには、4つの異世界がある。
『機界ロレイラル』『鬼妖界シルターン』『霊界サプレス』『幻獣界メイトルパ』......
これらは異世界ってぐらいだから、普通の手段では行き来はできない。
しかし、普通じゃない手段を使えば行き来できてしまう。
『ゲート』というのが、そのふつうじゃない手段の名前だ。
霧の深い海とか、鏡のようになった湖の水面とか、そういったものが偶然異世界と"つながって"しまうことがある。
そこを通って異世界の住人がこちらの世界にやってきたり、逆にこちらの人間が異世界に迷い込んでしまったりすることがある。
そういった問題に対応したり、ゲートを管理して未然に防いだりするのが異世界調停機構の役目のひとつであり、わたしたち調停召喚師の主な仕事だ。

「そこまでは、聞いていた話とそう大きく違わないようだけど」

ここまでイェンファに話してから、イェンファは口を開いた。

「今のが仕事のひとつ、ということは、他にも色々あるということかしら?」
「うん......世界の壁を超える手段は、実はゲートひとつじゃないの」
「それが召喚術、よね?」

召喚術。
魔力を使って、異世界の住人を直接この世界に呼び出す術だ。
もちろん、誰にでもできるようなことじゃないし、万能の力ってわけでもない。
けれど、使い方によっては、とても危険な力になりうるのも確かだ。
だから、すべての召喚師は異世界調停機構に名前や能力を登録することになっている。

「......そもそも、召喚術ってどういうものなの?
本物の召喚術は、万能じゃない。確かそんなことを、さっき言っていたわよね?
でも、遠い昔には、召喚術が最高にして最強の力だったとも聞くわよ」

イェンファの言うことは、多分まちがってない。
はるか昔にはそういう術もあったらしい。しかし今は、それは失われてしまったということだ。
今わたしたちが使っている召喚術は、正式には『響命召喚術』と呼ばれるものだ。
リィンバウムに生まれた人間が、運命をともにすることとなる異世界の者と出会い、互いに心を通わせあったとき、その二人のもとに『響命石』が生まれる......
その響命石を媒介としている召喚術だから、響命召喚術と呼ばれているのだ。

「う、運命?」
「そう、運命。......どうかした?」
「いえ、いきなり大仰な言葉を聞いたものだから、驚いて」

えー、そんなにおかしかったかな?

「すてきな言葉だと思いますけど......」
「......それはいいわ。話の途中にごめんなさい。
逆に、心を通じ合わせた誰かがいなければ使えない術、なのね?」
「そう。勉強や努力だけではだめなの。出会うということ、それこそが...」

わたしが話を続けようとすると、

「その話はもういいわ。それより、そこの、あなた......」

イェンファの興味はわたしの響友に移ったらしい。
スピネルはいきなり自分に話を振られて戸惑っている。イェンファがさらに話しかける。

「そう、あなた。あなたが、この人の響友なのよね?」

この人......

「は、はい。わたしが響友です」

わたしの響友は気にならなかったらしい。
気にしている余裕がないだけかもしれないけど。

「さっきからずっと一緒にいるけど、たぶん、いつもそんな感じなのよね?」

イェンファのこの問いに

「はい。いつも、一緒です!」

スピネルは満面の笑みで返していた。

「それで、あなたの召喚術は、その子をそばに呼べるものなのよね?」
「そうだよ」

わたしもイェンファのさらなる問いに笑顔で返した。
だが、

「......それって、意味あるの?」

......あれ?
そもそも響友と一緒にいるなら、近くに召喚する意味がない...?

「......」
「......」
「......」

いい天気の下、3人分の沈黙が流れる。

「さて、次に行きましょ!」

わたしは諦めて次を促した。

「はい、次に行きましょう!」

よかった、わたしの響友は空気が読める子だったみたい。
後ろでイェンファのため息が聞こえた気がするが、気のせいだろう。

わたしたちは次の目的地に歩き出した。

----

その後わたしたちは、異世界調停機構の近くにあるセイヴァール響界学園や、今朝(お昼近くだったけど)通ったセイヴァールアベニューなんかをイェンファに案内して回った。
ナギミヤ市遺跡にはさすがに驚いていたけど...そりゃそうだよね、巨大な岩が刺さっててその上に遺跡があるんだもん。
わたしも最初に見たときはびっくりしたものだ。なんか傾いてるし。

そして少し市街地から外れた、つまりわたしたちの自宅がある方に近づいたとき、

「そういえば、今朝、戸締まりってちゃんとして出たっけ?」

わたしは不意にそんなことを思い出してスピネルに確認した。
スピネルも思い出せないようだ。
あと大家さんに実家からの小包を預けてたっけな。それも確認したい。
イェンファに寄り道する旨を告げ、わたしたちはカフェに戻ってきた。

カフェ&バー・星の波止場。
これがわたしたちが住んでいるカフェの正式名称だ。
街の外れの湖畔に位置していて、大きな窓から見える景色はそれなりに良い。
豪華な金色のステージに、立派なグランドピアノが置いてある。
そのステージを砂浜と見立てて、客席が夜の海の中にあるかのように設置されている。
わたしは大家さんを呼んだ。

「こんにちはー。大家さん、いる?」
「もちろん、いるわよ。営業中だもの。
そういうあなたたちが、こんな時間に店にくるのは珍しいわね。何か飲んでいく?」

大家さんがからかってきた。
隣からイェンファのため息が聞こえた。スピネルが慌てて言う。

「誘わないでください、これでもわたしたち、任務中なんですよ」
「......というか、からかわないでください。大家さん、分かってて言ってるでしょ?」
「あらぁ、何のことかしら?」

このわざとらしい口調である。さすが悪魔だ。

「それより、後ろのその子、怖い顔してるけど大丈夫〜?」

イェンファのことだろう。
そうか、寄り道すると言ってここに来ているんだから、ひょっとしたら任務をさぼって飲みにきたとでも思われているのか。
さっきからイェンファから痛い視線を貰うのはそういうわけだったのか。
わたしは慌ててさぼっているわけではないと弁明する。

「あら、そうなの?だったら、納得のできる説明をもらえる?」

イェンファはそう返してきた。
ええと、どこから話そうかな。わたしたちはここの元倉庫に住んでて、朝寝ぼうして、ええっと...

「あ、そうそう、今朝あなたたち、部屋の鍵をかけずに出ていったでしょう?」

大家さんが助け舟を出してくれた。ありがとう大家さん。

「たまたま気がついたから、閉めておいたわ。それと、はぁい、預かってた荷物。
メッセージカードもついてるわよ。たまには手紙を返してあげたらどう?」

わたしたちの要件を全て読み取ってくれた。
悪魔の商人は相手の考えてることを読み取るのは得意らしい。いつか言っていた。
するとスピネルがイェンファに、

「あの、わたしたち、ここの隣にあるお家に下宿させていただいてるんです」
「......ああ、そういうこと」

と、説明していた。イェンファがさらに言葉を続ける。

「私はてっきり、あなたが任務をさぼって飲みにきたものとばかり」

うん。ちっとも弁明を聞いてもらえてなかったことは、よくわかったよ。

「ふふ、からかってごめんなさいね。面白いことになっていたから、つい」

つい、じゃないよ大家さん...

「よかったら、仕事の後にでも改めて遊びに来てくれるかしら?」
「......考えておくけれど、あまり期待はしないで。
こう言っては失礼かもしれないけれど、あなたのような方は、その......苦手で」
「うふふ、でしょうね。けど私は、あなたみたいな子、好きよ?」
「......そういう、仔猫を愛でるような目で見られるのが苦手なの」
「残念、嫌われちゃった」

全く悪びれない大家さん。
街に来たばかりの人までからかわないでほしい。

その後も大家さんは商売話をイェンファにイキイキと語り、イェンファは少し引いていた。
わたしは実家からの小包を手に呆然と聞いていた。この重さは実家の庭のキッカの実かな。

「できれば、うちの自慢のコーヒーも飲んでいってほしいところだけど」

おっと、コーヒーの話になった。
わたしは学生時代にここでバイトをしていた。コーヒーもよく淹れていた。
大家さんがさらに話を続ける。

「以前までいた、最高に腕がいいマスターがやめちゃったのよね......」

おや?
そのマスターって、まさかわたしのこと?
わたしがスピネルの方を見ると、スピネルも同じことを考えていたのかこちらをちらっと見て、視線を二人に戻した。

「私も、コーヒーの腕には自信あるけど、あの子の淹れたものの味には遠く及ばないの」
「はぁ......それは、残念でしたね」
「でしょう?残念だと思うでしょう?だったら、あなたからもぜひ本人に」

大家さんから『本人』という単語が聞こえた直後、

「よし、それじゃ用事も済んだし、そろそろ次のところに行きましょ!」

わたしはそう言ってイェンファの腕を掴んで引っ張って歩き出した。

「え、な、なに?ちょ、ちょっと、引っ張らないで!」
「ひゃあ、わたしを置いていかないでください〜!」

カランカラカラン、わたしは逃げるようにカフェから出たのだった。
カフェの扉の音と慌てたスピネルの声が背後に聞こえた。いつの間にか、持っていたはずの小包はなかった。

----

市街地を一通り見て回ったわたしたちは、異世界調停機構の本部に戻ってきていた。
そういえば施設内部の案内はしていない。イェンファは既に把握しているかもしれないが、確認をとったところ全ては見て回っていないようだ。
わたしたちは各部屋を案内する。するとイェンファは一つの部屋の前で足を止めた。

「あら、この部屋は......」

訓練室だ。

わたしたち召喚師の本分は、話し合いにある。
しかし、どうしても戦いを避けられない場合も少なくはない。よって、そういう時に備えて日頃から訓練をしている。
確かにイェンファは腕が立ちそうな雰囲気だ。興味があるのかもしれない。

「興味ある?」
「正直に言えば、そうね。興味はあるわ...この部屋じゃなくて、あなたの戦闘力にね」

そうきたか。

彼女曰く、これから共に任務にあたる相手の腕を見ておきたいそうだ。
そこまで言われては断れない。この際にイェンファの実力も見せてもらおう。
わたしは訓練室の使用を希望する旨を入力した。

とはいっても、直接彼女と剣を交わすわけではない。
この訓練室での相手は、防衛機械と呼ばれるものだ。
この機械を相手に、わたしたちは基本動作や立ち回りの訓練をする。
ちなみに、機界が関係しているせいか霊属性に弱い。スピネルは霊属性なので、いくらか有利だ。
わたしたちは、相手役の機械の攻撃がぎりぎり当たらない位置に陣取り、訓練を開始した。

----

「どう?わたしたちの力、だいたいわかった?」

訓練を終えて、わたしはイェンファに聞いた。

「そうね......一定の水準には達しているみたい。少なくとも、足手まといにはならないようで安心したわ」

これは褒められてるんだよね。
うん、そういうことにしよう。イェンファはわたしたちを褒めてくれた、と。

そのイェンファの実力は、なんというか、とても強かった。言うだけはある。
剣と銃を使いこなす身のこなしは見事なものだった。
特務騎士っていうのは、みんなこんなに強いのかな?
そう思いながらわたしたちは、また市街地のほうに向かった。

----

そして今度は、郊外の方に向かおうという話になった。
わたしたちが歩みを進めていると、

「あら?...ねぇ、あれ」

突然イェンファがわたしを呼び止めた。
どうしたのだろうか。この辺りには目立った施設はなかったはずだが。

「どうしたの?」

「いや、あそこ...人が倒れているように見えるのだけど」

なんだって?
イェンファが指差しているのは建物の間の路地。日陰になっていて見にくいが、確かにコートのようなものが見える。
わたしたちはそばに駆け寄った。
見てみると、黒い髪の男の人だ。側頭部を押さえている。

「だ、大丈夫!?」

わたしは声をかけた。すると、

「う、うう......ん?
だ、大丈夫です、頭を打っただけです......」

割とはっきりした返事が帰ってきた。
薄暗い路地だ。何かに頭をぶつけただけか。わたしは少しだけ安心した。

男の人はふらふらと立ち上がった。着ていたコートは実は濃い緑で、服装も緑、青いズボンもはいていた。
男の人は少し考える様子を見せながら、わたしたちに尋ねた。

「ええと、ここはリィンバウムで合ってますか?」

おかしな質問だ。
わたしがきょとんとしていると、イェンファが代わりに答えてくれた。

「ええ、それで間違いないわ。...あなた、何者?その質問はどういう意味かしら?」
「ああ、そうですよね!ごめんなさい変なこときいて!
すこしボケていたみたいです。私はモネという者です」

モネさんか。路地で頭をぶつけて倒れてただけだし、一般の人かな。
わたしも自己紹介をしようと思ったところ、彼はとんでもないことを言い出した。

「神様やってます」

...はい?
スピネルが思わず声を上げる。

「え、ええっ!?神様!?」
「はい、神様です」

彼は2度そう言った。

----

イェンファの尋問が始まっていた。

「で、結局あなたは何者なの?」
「だから私は神様なんですってば!」
「はぁ......じゃあ、百歩譲って神様だとして、どうして路地で寝ていたのかしら?」
「うぅ、それは......」

さっきからずっとこの調子だ。
わたしたちは市街地の方に歩きながら、モネさんを尋問するイェンファを後ろから眺めている。
この様子だと、イェンファが探している危険人物とは関係がなさそうだった。
最後にはモネさんが、

「もう...分かりましたよ、信じていただかなくて結構です」

なんてことを言い出した。
まだ何か言いたそうなイェンファの先手をとって、わたしは口をはさむ。

「わ、わたしはアルカ。召喚師よ。そしてこっちが」
「響友のスピネルです」

あれからわたしたちはまだ名乗ってすらいない。
わたしたちはイェンファのほうに目線を送ると、なぜ素性も知れぬ初対面の相手に名前を教えなければならないの?という目線で返された。
その後イェンファはため息をつき、

「......イェンファよ」

そう短く言った。
人のことを聞く時はまず自分が名乗れ、そう誰かが言っていた。誰だったかな。
モネさんは少し嬉しそうにした後、

「はい、改めまして私はモネです。よろしくおねがいします。
探し物をしにこの島に来たんですけど、うっかり路地で頭ぶつけちゃいました。えへへ」

と、改めて自己紹介してくれた。やっぱり善良な民間の方だと思うんだけどなぁ......
さらにモネさんは言葉を続けた。

「えっと、この島には来たことがあると思うんですけど、どうもだいぶ構造が変わっちゃっていまして...
よかったら、この辺りを道案内してもらえませんか?」

案内する人が一人増えた。
まぁ一人でも二人でも変わらないし、わたしは承諾した。
何より困ってる人はほっとけないしね。

「うん、いいよ!じゃあ、今向かってるところだけど次の目的地に案内するね!」
「はい、ありがとうございます!」

こうしてわたしたちは、モネさんという奇妙なことを言う人と共に歩き出した。
イェンファはまだ怪訝な顔をしていたけど。

わたしたちは響友の意味についてだけモネさんに聞かれた。あまり召喚術には詳しくないのかな?
モネさんの素性には特に触れずに、後は世間話をしながら進んだ。

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「間もなく発射いたします。危険ですので、駆け込み乗車は......」
「きゃーっ!待って待って、ちょっとだけ待ってぇ!」

わたしたちが降りた駅で、入れ替わりで駆け込み乗車する人とすれちがった。
事故が起きてないか一瞬心配になったけど、何事もないようだった。

「......これだけ多くの民間人が乗せられているなんて、他の都市では見られない光景ね」

イェンファがそう言った。モネさんは鉄道には慣れているのか、クスクス笑っていた。

この街には、世界でも随一の召喚鉄道が運行されている。
ロレイラル出身の技術者や、いろんな機械生命体の助力の賜物である。
この街の自慢の一つだ。

と、そこに、見慣れた人が二人で話し込んでいた。あ、今片方どっかいった。
わたしは残された方、警察騎士アベルトに声をかけた。

「アベルト、おはよ」
「おはよう、ございます......」

わたしの響友も挨拶をした。

「おう、アルカ。お前らか......」

彼がアベルト。金髪で、男の人にしては少し髪が長い。
灰色の目には眼鏡をかけている。いつもの真っ黒な警察騎士の制服だ。
ずいぶんと疲れているように見える。いつものことだけど。

「今日も夜勤明け?」
「あー......まぁな......しばらく、面倒なヤマが続きそうでな......」
「はは、大変だね、そっちのほうも」

わたしはアベルトと軽い世間話を交わす。
するとイェンファが口をはさんできた。

「その制服からして、あなたは警察の人間よね?
あまり調停機構に深入りするのは、ほめられた話ではないわね」
「かてぇこと言うなよ。両方ともおんなじ正義の味方だろ?
現場レベルでの協力は、規則でもしっかり認められてるわけだしな」
「それは、協力せざるをえない状況に陥った場合のための規則でしょう。
有事の前から乱用を前提にして動くのは、普通に問題だと思うのだけど」
「む......」

返す言葉がないアベルトは、わたしに小声で尋ねてきた。

「.......ところでアルカ、この怖いお嬢さん、誰?
なんだか見覚えのある制服、着ちゃってるみたいだけど」

うん。アベルトの組織、警察騎士団のえらい人だね。
モネさんは黙って二人の会話を楽しそうに聞いている。アベルトも気にしていないようだった。
わたしは二人を紹介することにした。

「そんなわけでアベルト、こちらは特務騎士のイェンファ」
「特務!......って、その花の徽章、もしかして」

あ、アベルトはこの模様見たことあるんだね。

「ええ。あなたの考えている通りよ」
「桜花隊所属か!へえ!そういう部隊があるって話は聞いてたが、本物の徽章を見るのは初めてだ」

へぇ、そんなに凄い部隊なんだ。
優秀な女性だけで作られた、特殊かつ特別な部隊と、アベルトは言った。
イェンファってそんなすごい部隊の人だったんだね。そうだ、イェンファにも紹介しないと。

「それと、イェンファ。こっちはアベルト。
セイヴァールの常務警察騎士で、......まぁ、わたしの、悪友です」
「の、ようね、いかにもあなたと気が合いそうな人だもの」
「はは、違いないな」

アベルトが笑ってそう言う。わたしも同意した。

「......喜んでいいんでしょうか......」

スピネルが呟いた。
アベルトが続けて発言する。

「え、そっちの緑のコートの方は......」
「あ、私、モネっていいます。今日久々にここに来たばかりで。
アルカさん達には道案内をお願いしています」

よかった、今度は変なこと言わなかったね。

「そうか。まぁ、どういう理由でセイヴァールに来たかは知らないが、助けが欲しい時は......」
「キャーッ!」

アベルトがそこまで言った時、遠くで悲鳴が聞こえた。
なんだろう、また鉄道のトラブルだろうか。いや違う、そんな悲鳴じゃない。

「......ちっ!嫌な予感がする。手を貸せ召喚師!」
「当然!行くよ、おまわりさん!」

わたしとアベルトは悲鳴のする方へ走り出した。

「え?あの...ちょっと。待ちなさいよ!」

後ろでイェンファの声が聞こえた。
少しだけ振り返ると、モネさんもちゃんとついてきていた。走るの遅いけど。

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「おい専門家、説明しろ、ありゃなんだ!」

一番についたアベルトが叫んだ。

黄色くて丸っこい体に、紫のはねがついているお化け。
あれは、霊界サプレスの霊体の一種、タケシーだった。
わたしが説明しようとすると、

「タケシーです。霊界サプレスの雷獣!」

今さっき追いついたらしいモネさんが説明した。
あれ、あまり召喚術には詳しくないと思ってたんだけどな。
そんなわたしの疑問は気にせず、アベルトはモネさんと会話を続けた。

「そのオバケには、貨物列車を見たら漁るような迷惑な修正でもあるのか!?」
「えっ!?えーと.....そんな習性は聞いたことないですけど」

わたしも聞いたことはない。

イタズラ好きではあるけど、ふつうそこまで迷惑なことはしないはずだった。
わたしはタケシーとの会話を試みた。

「ゲレゲーレッ!!」
「ゲレ!ゲレレゲレゲレ!ゲレレ、ゲレレレレレゲレレ!」
「ゲレー!」

2番目の少し長いことを言っているのがわたしだ。
わたしは昔のとある仕事柄、異世界の住民とはある程度話ができる。
モネさんがいきなり吹き出して、腹をかかえてクックッと笑っていた。ちょっと失礼だ。
わたしは会話の内容をみんなに伝える。

「「問答無用!」だって!
ダメだ、まともに話を聞いてもらえないよ!」
「しょうがねえな、まずは窃盗の現行犯で逮捕する!
異世界の住人相手の戦闘は勝手がわからん!アルカ、指示はお前に任せたぞ!」

わたしに指揮官として白羽の矢が立った。特に依存はない。

「わかった!イェンファも、今はわたしの指示に!」
「え? ......え、えっ?」
「よろしく!あ、モネさんはどっかその辺に隠れてて!」

モネさんは見たところ一般の人だ。避難してもらおうと思ったところ、

「いや、私も協力させてもらいますよ!召喚術の腕前には、一応自信があります!」

なんてことを言い出した。
なんだって、モネさんは召喚師だったのか。じゃあなんで響友の説明を求めてきたんだろう。
わたしが不思議がっていると、

「なんだと、それを先に言え!分かった、協力してもらう!」

なんてことをアベルトが言った。
イェンファも怪訝そうな表情で、スピネルもきょとんとしていた。
わたしは戦闘前に気が抜けているスピネルに

「行くよっ、スピネル!」
「あ、はい!姉さま!」

声をかけて、戦闘態勢に入った。

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「むー...おっかしいなあ......」

後ろのほうで、モネさんはそう呟いていた。

結局、モネさんの召喚術は完全に不発だった。響友すら出てこない。
わたしたちはモネさんを後方に置いて、タケシーたちの相手をしていた。
数匹には逃げられちゃったけど......

「で、正直なところはどうなんだ?」
「すっごく痛い!」

タケシーが見境なしにめちゃくちゃ暴れたせいで、近くにいた女の子に飛んでいった雷撃からかばった。
痛い、体中がパリパリしてる。ちょっと熱い。
逃げたタケシーにはアベルトが手配をかけてくれて、何かわかったら調停機構に連絡をくれるらしい。
イェンファには呆れられた。

「状況の把握も中途半端なうちに、もめごとに首どころか体ごと突っ込んだあげく、
どさくさにまぎれて私まで指揮下に入れてしまうなんて、ね」

返す言葉もない。

「まあ、いいわ。今回の件に関しては、あなたがそういう人間と分かったことが収穫だったと思いましょう。
......それはそうとして、あなた」
「ふえっ!?」

モネさんが驚いて返事をした。
何か考え事をしているようだったが、イェンファが話しかける。

「あなた、なんなの?ひょっとして詐欺師か何か?」
「ちちち違います!違うんです信じてください!!
今日はきっとたまたま調子が悪かっただけなんです!!」
「......とか言ってるが、そこんとこどうなんだ、専門家」

アベルトがわたしを見て言った。
召喚術が不発なんて、わたしは聞いたことがない。
いや......まてよ、

「ひょっとして、魔力が足りてないんじゃあ......」

召喚術を行使するためには、少なからず魔力が必要となる。
モネさんはもしかして、魔力を知らぬ間にどこかで使って、術が使えない状態だったのではないだろうか。

「あー...なるほど、そうかもしれません。確かに強力な術を使おうとしました」

やっぱりか。響友はそれほど強力な力を持っているんだろう。
路地で頭をぶつけて倒れるほど魔力をどこかで使って、それから回復していないということだろうか。
あれ、ならどこで魔力を使ったんだろう。謎は深まるばかり。

「......まあ、そういうことにしといてあげるわ。
異世界調停機構には変わった召喚師ばかり所属しているのね」

あ、わたしもその変わった召喚師に入れられてるのかな。

自分の傷をスピネルに癒してもらった(天使として、治癒の術は得意だ)後、アベルトと別れて、わたしたちは郊外へ出た。

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セイヴァールの中心部を出れば、そこは大きく4つの特区に分けられる。
北東に位置するのがロレイラル特区・アルトリクス、
南東に位置するのがシルターン特区・風雷郷、
南西に位置するのがサプレス特区・水晶の森、
そして北西に位置するのがメイトルパ特区・ヴェルディアの町だ。
これらはそれぞれの世界に住む人々が形成している集落で、もちろんリィンバウムや他の世界の人とも基本的には暖かい交流がある。

わたしたちはそれらの一つ、メイトルパ特区・ヴェルディアの町に来ていた。

「ここが、メイトルパ特区......
ずいぶん、街中と雰囲気が違うところだけど......」

メイトルパの出身者は、石造りの街より、このような木や自然に囲まれた場所を好む。
住宅もログハウスで、トーテムポールが立っているのも見える。もう少し向こう側には大きな農場も存在する。
メイトルパに住むものは幻獣や妖精、亜人たちで、その世界は自然が非常に豊かだ。
と、スピネルがイェンファに説明している。

「......そう」

イェンファはそっけない態度だった。あまり興味を惹かれていないみたいだ。
一方モネさんは、

「......」

何か真剣な表情で考え込んでいた。
わたしがどうしたの?と尋ねると、

「あ、いえ。「口は災いの元」覚えました。
少し思うところがありましたが、今はいいです。そこまで重要なことでもありませんので」

と答えた。
わたしは彼の言いたかったことに少し興味があったけど、もうイェンファに尋問されたくないであろう彼の気持ちを汲んだスピネルが、

「さ、姉さま。次行きましょう!」

と、先を促してきた。
わたしたちは、南に向かって歩き出した。

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「あそこに見える森......ずいぶんと妙な雰囲気なのね」

イェンファがそう指摘した。
違いない、あれはサプレス特区・水晶の森だ。
うっそうとした森の中、たくさんの水晶が木漏れ日を反射している。

するとモネさんが口を開いた。

「あ、あそこは見覚えがあります。たしかサプレスの...」
「お、珍しく当たり。やっぱり来たことあったんだね」
「......やっぱり信じてもらえてなかったんですね」

あはは、まあ、仕方ないよね。
わたしは改めてイェンファに説明を始めた。

サプレスには、天使や悪魔、霊なるものばかりが住んでいる。
それらは自身を維持する魔力がなければ生きることはできない。
この水晶の森には、月の光に含まれる魔力を溜める力があり、彼らサプレスの住民はその力で生きているのだ。
逆に、リィンバウムの人間があまり長居をすると体によくない。

「生きたまま幽霊になっちゃた、みたいな人の話も聞くよ」
「それは......」
「ん?」
「......いえ、何でもないわ。次に行きましょう」

イェンファは何か言いたげだったけど、わたしに次の目的地に向かうよう促した。
モネさんは...何やらスピネルと話している。

「いつの間にそんな危険なところになったんですか?」
「さあ...わたしが初めて来た頃には、もう今の状態でした」
「そうですか......しかし、相変わらずいい森ですね。あの陽気な幽霊は、今もいるのでしょうか」
「え、知り合いがいるんですか?」

わたしが口をはさんだ。
変わったことを言う人の、霊界の知り合い。わたしは興味がわいた。
モネさんが返答した。

「え、まぁ......といっても彼は気まぐれなので、会えないときは会えませんから。
さ、次に行きましょう」

とのことだった。わたしたちは次の目的地に向かって歩き出した。

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「この辺りがシルターン特区ね。街並みを見ればわかるわ」

シルターン特区に着くなり、イェンファがそう言った。

木と紙の屋敷、瓦と呼ばれる材質でできた屋根がのっている。
そんな建物が街のように並んでいる。それがシルターン特区、風雷郷だ。
人が住んでおり、さらにそのすぐ隣に鬼や妖怪が住まう世界、それがシルターンだ。

「詳しいというほどではないけれど、ほかの異世界よりは、なじみがあるわね。
警察騎士団は、少なからずシルターンの協力を受けている組織だもの」

そっか。ここは説明要らなかったかな。
それに、シルターンに限って言うなら交流の場はセイヴァール以外にもあちこちの都市であるらしい。

「この世界を除いて唯一、私たちと同じような「人間」の住んでいる世界だもの。
目に見えて異質でない相手だから、互いに信頼もしやすかったんでしょうね。...あら?」

イェンファはそこまで言って、甘いにおいに気がついたようだ。
これは確か、アズキの匂いだ。近くに甘味処でもあるのだろう。
モネさんが口を開いた。

「あ、あそこで小豆を売ってますね。どうしますか、寄りますか?」

目が輝いている。アズキ好きなんだね。
わたしは寄ってみることを提案したが、

「え......な、何を言ってるの?私たちは任務中のはずでしょう?」

イェンファにそう怒られた。なんだ、残念。

そして急に早足になったイェンファの後をついて、わたしたちは郷を出た。
モネさんは何やらニヤニヤしている。きっと後で食べに来るんだろうな。

----

「ん?なんだかさがわしい......」

わたしたちがロレイラル特区に向かう途中、セイヴァールアベニューのほうから騒ぎ声が聞こえた。
その中で、本日二度目の金髪眼鏡に遭遇する。アベルトだ。

「おっ......なんだお前、珍しく間がいいな」
「アベルト?どうしたの、この騒ぎは」
「目撃証言が出そろった。さっきの逃げたテケなんとかのだな」

タケシーだよ......

どうやらさっき逃げたタケシーの潜伏場所が分かったみたい。
こういう異世界反罪は、捜査は警察がやるんだけど、実際の逮捕はわたしたち召喚師の仕事だ。
アベルトはどうやら調停機構に召喚師を要請してたらしい。そこにたまたまわたしたちが通りかかったというわけ。

「分かった。すぐに......」

ここまで言って、わたしはイェンファのことを思い出した。

「あ、あのぉ、イェンファさん......任務の最中、まことに申し訳ないんですが、
別件で、急ぎの任務が入ってしまったので、できればそのー......」
「気持ち悪い声出さないで。いいわよ、別に」

よかった。丁寧な言葉を選んだ甲斐があった。
でも気持ち悪い声ってどういうことなんだろう。

「さっき言ったでしょう、あなたがそういう人だと、もうわかってる。
どうせ私が認めなくても、強引になんとかしてしまうつもりなんでしょう?」
「へぇ、見た目よりずいぶんと話のわかる女じゃねぇか」

アベルトが口をはさんだ。
イェンファはアベルトを睨んで

「......私の外見が何か?」

そう突き返した。口は災いの元。今日誰かが言ってたな。
そうだ、モネさんだ。モネさんはどうしよう。
わたしはモネさんのほうに顔を向けた。すると、

「私ですか?そうですね......召喚術は何故か使えませんが、サモンアシストはできると思います。
あと、自分の身はなんとか守ってみますので、付いて行ってもかまいませんか?」

とのことだ。

サモンアシストというのは、召喚術の発動を手助けする行為で、魔力を使って術者の魔力負担を減らしたり、術の威力を増大させることが可能だ。
前線に出れない者も、召喚師がいればこのように戦闘に貢献することができる。
あれ?でも魔力がなくて召喚術が使えないんじゃなかったっけ?もう回復したのなら自分で戦えばいいのに......

しかし、先に口を開いたイェンファが気にした点は、そこではなかった。

「自分の身は守るって、あなたの戦闘力は皆無でしょう?さっきの奴の親玉がいるかもしれないわよ?」
「大丈夫です、こう見えて戦場の経験は豊富なので。足手まといにはなりません!」

確かに先の戦闘で、彼は全く標的にならなかった。
身を隠す場所を探すのは得意なのだろうか。何より何故か彼が自信満々に言い切るので

「...ふう、まあ、あなたがどんな性格の人かもだいたい分かってきたわ。
もういいわよ。ただし、私はあなたがどんな窮地に陥っても助けないからね。いい?」

イェンファはそう言った。
彼のことを認めたのか、それともいっそ戦場で痛い目を見てもらおうと思ったのか、わたしには分からなかった。

----

わたしたちはアベルトが聞いた目撃情報を頼りにセイヴァールアベニューを進む。
ある交差点に来た時、

「よし、この角の向こう側が、目撃情報のあった場所だ」

アベルトがそう言った。
スピネルがタケシーの霊気を感じるとも言っていた。ここで間違いないだろう。
わたしは突入を提案した。

「よし、1、2の3で一気に行こう」

みんなが頷いた。わたしが1、2の3と言ったら突入だ。
わたしは剣を構えて言った。

「「1、2の、」」

モネさんの声が重なった。ちょっとだけ照れくさかったが、そのまま続けて数字を発する。

「「3」」
「4の」

モネさん?

「5!!」

そう言うと、モネさんだけが飛び出していった。
ジョークのつもりなのか、はたまた素で間違えて言ったのか、わたしには分からなかった。
これがジョークなら、彼は警察騎士には向いていない。これは後で思った。
それより今考えたのは、

「ゲレエッ!」

出てきた巨大なタケシーのことだった。
でかい。普通のタケシーの10倍はあるだろうか。
それが角からモネさんの「5」という声と共に飛び出してきたのだ。
モネさんはそれに盛大に激突し、

「はうあ!」

と叫んだかと思うと、

「ゲレエ〜〜〜ッ!!」

タケシーの電撃を背中にモロに食らっていた。
わたしたちは慌てて飛び出した。

「ちょ、モネさん!!」

わたしは叫ぶ。あんなもの、普通の人間が食らったらひとたまりもない。
ところがモネさんは、

「うわあ、でかっ!アルカさーん!でっかいタケシーがいますよー!」

なんと、ダメージを全く受けていなかった。
わたしたちが呆然としていると、

「私は大丈夫です!皆さんは状況把握なり戦闘態勢突入なりをお願いします!
時間は......稼ぎます!」

そう言いながら、いつの間にか集まっていた小さなタケシーたちの雷撃をかわし、あるいはコートで受けている。
あのコート、何でできてるんだろう。自分の身は守れる、これは本当だったようだ。

「そうだ、助けなきゃ!」

わたしのこの声に、みんな我に返った。

状況は、小さなタケシーがたくさんと、巨大タケシーは2体。
とにかく大人しくさせて、それから話をしよう。
既に戦闘態勢に入っているアベルト、結局彼を助ける形になったことに不服そうなイェンファと、

「行きましょう、姉さま!モネさんにも限界はあるはずです!」

少し慌てているスピネルと共に、わたしたちは戦闘に突入した。

----

「くぅ〜、疲れました!」

戦闘が終わって、タケシーが大人しくなってからの彼の第一声はこうだ。
結局彼は傷一つなく、近接戦をやってたわたしの方がボロボロだった。
この人、相当強い。召喚術が使えたら、もっと強いんだろうな。
スピネルが彼を凝視している。正確には、彼のコートか。
それに気づいたのか、スピネルの方を向いて一回転してから、

「どうです、頑丈なコートでしょう?
このコートまで力を失っていたらどうしようかと思いましたが、なんら問題ありませんでした!」

そう言って、イェンファに向かってドヤ顔を決めた。
イェンファはそれを完全スルーし、

「おつかれさま」

わたしに労をねぎらってきた。
ちょっとモネさんが可哀想だったけど、まぁ自業自得だよね。勝手に飛び出してったのモネさんだし。

「あ、イェンファもおつかれさま。
......それと、何と言うか、ごめん。街の案内のはずが、ヘンなことになっちゃったね」
「構わないわ。これもこの街の姿のひとつ、なんでしょう?」

イェンファはそう言って、

「異世界の生物が、すでにいろいろと入りこんでいる......
けれどその生態について、誰もが詳しいわけではない。
異世界について詳しい知識を持っているのは教育を受けた召喚師くらいのもの。
そういった無知や誤解からもめごとが起きることも少なくないんでしょう?」

こう続けた。どうやら今日でこの街に対して一つの結論が出たらしい。
確かにその通りだ。この街はまだまだ理想にはほど遠い。
けれど、異世界は決して怖いだけの存在じゃない。友達にだって仲間にだってなれる。
一緒に手をとりあえば、もっと素晴らしい世界が作れるはずだ。
そのことをみんなに知ってもらうため、わたしは今日も頑張っている。

----

「じゃ、何にせよ事情徴収はこいつが目を覚ましてからだな。
こっちでこいつは確保しとく。ついでに書類での報告もすませといてやるよ」

そう言って、アベルトは巨大タケシーを連れて行った。
だいぶ日が傾いてきた。ロレイラル特区には行けないかな。
イェンファが、

「時間も時間だし、今日のところはもういいわ。
これからのことについては、異世界調停機構のほうに連絡するから。
では、また明日」

と言うなり、去っていこうとするので、わたしは呼び止めた。

「あ、ちょっと待って。あとちょっとだけ、言わせて」
「......何?」

わたしは、伝えたいことを伝える。

「このセイヴァールは、どうひいき目に見ても普通じゃない街。
五つの世界を結ぶ、旅人たちの交差点。言ってみれば、異邦人だらけの街。
だから、あなたがこれまえ見てきた世界とは、いろいろと違って見えるものも多いと思う。
けど、だからこそ、忘れないでほしいんだ。この街は、普通じゃないことを受け入れる。
街の外からやってきたあなたのことも、もちろん......ね」
「......」
「だから、あらためて、言わせてもらうね。ようこそ、セイヴァールへ!」

わたしが笑顔で言うと、

「こ、これから、よろしくお願いします!」

スピネルも笑顔で言ってくれた。イェンファも釣られたのか、少し笑って、こんなことを言った。

「......ふふ、やっぱりヘンなところね、ここは」

----

イェンファの姿が見えなくなった後、

「で、これからどうするんですか?」

モネさんの声が聞こえてきた。

わたしはこれから異世界調停機構の本部に戻って、総帥に事を報告するつもりだったけど、それより彼がどうするのか気になった。
その旨を告げると、

「私ですか?そうですね...そういえば今晩寝るところありませんね、あはは」

と、軽い調子でとんでもないことを言った。
今から宿を取りにいくのだろうか、そもそもお金をもっているかどうかも怪しかった。

わたしは異世界調停機構に宿を求めることを提案したが、

「ええー!?さ、さすがにそれは......なんというか、私にもメンツというものが......」

路地で頭をぶつけて倒れておいて何がメンツなのだろうか。
とにかく、彼は異世界調停機構の本部に行くことを拒否した。

そこにスピネルが、

「姉さま、大家さんのカフェって、確かもう一つ空き部屋がありましたよね?」

そんなことを言ってきた。
そういえばあったな、倉庫になっている部屋が一つ。一応、人が一人寝れるぐらいのスペースはあったはずだ。
うん、モネさん面白い人だし、大家さんも気に入るだろう。わたしは彼に提案した。

「ほんとですか!?ありがとうございます!
あ、でも手ぶらではなんなので、何か手みやげを探してきますね!」

モネさんはそう言うと、郊外の方に姿を消した。
大家さんのカフェに泊まることについてのメンツはいいのか。
それに手みやげってなんだろう。お金はやっぱりないみたいだし、郊外に走っていったけど......

「さ、姉さま!わたしたちは本部に戻りましょう!」

スピネルがそう言って、わたしたちは総帥の元に向かった。

----

そしてわたしたちは、ジンゼルア総帥とお茶をしていた。

巨大タケシーの原因は、メイトルパ由来の秘宝で「ユヒテルの果実」というものだった。
先日、メイトルパ特区にあったこれが何者かに持ち出されて、それをどうしてかタケシーが食べた結果、今回の事件が発生した。
果実を持ち出した犯人はまだ判明していない。調査中とのことだった。

「集落の落ち度で迷惑をかけたと、長老が柄にもなく落ち込んでいたよ」

らしい。わたしは本日2度目の総帥とのお茶を終え、本部を出た。

----

自宅に戻る途中、

「おーい!アルカさーん!」

わたしを呼ぶ声がした。モネさんの声だ。
何やら少し泥に汚れている。その手には昼間に寄った風雷郷の店で売っていたであろうアズキモチが......

「はむっ」

今、全て無くなった。それは手みやげってわけじゃないんだね。
というかやっぱりお金は持ってたのか。さすがにこの時間からだと宿は空いてないだろうけど。

「じゃ、悪いですが案内してください。あ、ちゃんと手みやげは用意しましたよ」

と言った。わたしは承諾すると、帰路についた。
道中で、なんとなく話を振ってみる。

「ねえ、手みやげを用意したって、どこで何をしてたの?
風雷郷に行ってアズキモチを買ってたのはわかるけど」
「ああ、私が以前この島にいたことは言いましたよね」

まただ。この人はこの街のことを「島」と呼ぶ。
確かにこの街は大きな島にあるのだが、セイヴァールの呼称としてはいささか変だ。
まあ、この人が言うことは大体変なんだけど。

「で、その時に埋めておいた当時の品を掘り起こしてたんですよ!これですこれ!」

そう言うと、彼は一つの指輪を取り出した。

金の淵に緑色の宝石がはめられている。
ただ、だいぶ時が経っているのか、ずいぶんとさびれているように見えた。

「『四界の指輪』というもので、全属性の召喚魔法に対する抵抗力が上がるとても珍しいものなんです。
2つ入れといたんですけどね、片方は資金にしちゃいました」

そっか、それでアズキモチを食べてたんだね。お金は最初は持ってなかったんだ。
そう思った後、

「......ん?2つってことは」
「......はい、これはちょっと大事な人に貰ったものです。
まあ、見ての通りだいぶ年代物ですし、その人もきっともういません......」

モネさんは少し寂しそうな表情をして言った。

そんな大切な物を、なんでこの街に埋めておいたんだろう。モネさんの大切な人は、よっぽどこの街が好きだったのかな。
おまけに、片方は売っちゃったんだ。多分売った方はモネさんが自分で持っていた方だろう。
しかもそのお金でアズキモチって......

待って。手みやげってもしかしてこれ?
わたしがそんなことを考えた直後、スピネルが言った。

「ま、まさか、そっちの指輪を大家さんに......?」
「はい、そうですね。私にはもう必要のないものです」

やっぱりそうか。
わたしは彼の手の指輪を掴むと、

「うお、アルカさん!?何を......」

突然の行動に戸惑う彼の薬指にはめた。
それからわたしは言った。

「だめだよ!そんな大事な人から貰った指輪をあっさりあげちゃうなんて......
モネさんはその人のこと、どうでもよかったっていうの!?」
「え!?いや、その、どうでもよくはない、ですけど......」
「だったら尚更!ちゃんと持っててあげないと、天国のその人、泣いちゃうよ?」
「そうですよ!それは大切な人が生きてた証でしょう!?あなたが持っていないと、きっとその人の魂も救われません!」

そうわたしとスピネルがまくり立てた後、モネさんはしばらく何かを考えてから、

「......そう、ですね。天国、ですか......」

そう呟いた。
はめられた指輪は彼の魔力に反応しているのか、淡い山吹色の光を発していた。
それから彼は言った。

「ありがとうございます。そうですね、もし天国に行ったら彼女に会うかもしれません。
それまで大切に、とっておきます」

よし、説得に成功したみたいだ。

彼女ってことはやっぱり恋人か何かだったのかな。
天国に行ったら、ということは死ぬまで持っておくことを決めたのだろう。
その時、聞き覚えのあるおっとりとした声が聞こえてきた。

「そうよ〜。そんな大切な物を取り上げちゃうほど、私も悪魔じゃないわよ〜」

大家さんだ。
いつの間にか、わたしたちはカフェの前まで来ていた。というか、通り過ぎるところだった。
というか、聞こえてたのね、わたしたちの会話。
わたしはとりあえず挨拶をした。

「あ、大家さん!ただいま!」
「た、ただいまです......」
「あら〜、おかえりなさい。で、そっちの子は?あ、もしかしてボーイフレンドかしら?」

そう茶化しながら、大家さんはカフェの中に入っていく。
わたしは特段気にしない。モネさんは、

「ふむ......こういう人ですか」

などと呟きながら、わたしの後ろに立っていた。
わたしはスピネルと一緒に、カフェの中に入った。

----

大家さんは悪魔だ。悪魔は他人の怒りや悲しみなどの負の感情を糧としている。
大家さんはそれだけで生活しているわけじゃないんだけど、それでもあの様は異様だった。

「だ、だから言ったのに......大丈夫ですか?」

モネさんは、なんというか、悪魔にとってすごい精神を持っていたらしい。
大家さんは最初からそれに目を付けて、あわよくば味見を思っていたのだろう。
そして、モネさんが少しならいいと言った後、大家さんは目を回して倒れたのだ。

「う、うわあ......凄いわね、あなた。
こんなに特上なのは初めてよ.....ねえ、よかったらしばらくここに住まない?」

という話になった。手みやげはモネさんの精神で十分だったようだ。
モネさんは承諾し、代わりに毎日精神を少し大家さんに分けてあげるそうだ。
精神を分けるってなんだろうか。わたしもよく分かっていないが、とにかく二人の商談は成立したようだ。

「じゃあ、アルカさん。今日はいろいろとありがとうございました。
また明日、お会いしましょう。おやすみなさい......」

そう言って、彼は提供された部屋に行った。
彼が明日何をするかはわたしには分からなかったが、それはまた明日聞けばいいと思った。

そんな事を考えながら、わたしはカフェのお気に入りの場所で風に当たっていた。
すると、

「姉さま?やっぱり、そこにいたんですか」

スピネルの声がした。

「もう......屋根の上は危ないから、大家さんに禁止されているはずですよ?」
「スピネルもおいでよ。風が気持ちいいよ」
「またそうやって、わたしを共犯者にしようとするんだから......」

そう言いながら、スピネルは屋根の上に登ってきた。

「わあ......気持ちのいい風。
それに、優しい月の光。一日の疲れがとれていきます。
姉さまは覚えていますか?初めてここの屋根に登ったときのこと」

ああ、覚えてる覚えてる。
確か大家さんに見つかって、しこたま怒られたっけ。

「あれから何年も経ったのに、姉さまはどこも変わりませんよね」
「スピネルは、変わったよね。初めて会った時にはあんなに小さかったのに」
「見た目はそうかもしれませんけど、でも......
わたしも、変わってません!あのころからずっと、わたしは、その......
これまでも、これからも、姉さまを大好きなわたしのままです!」

......そっか。

「二人そろって成長がないっていうのは、考えものかもしれないけど......
ま、いいか。改めて、これからもよろしくね。スピネル」

なんとなく、明日からまた大変なことになりそうな予感もするし。

「は、はいっ!任せてください、いつでもいつまででも、
姉さまのそばで力になり続けます!」

スピネルは、満面の笑みでそう返してくれた。

「うん、信頼してる」
「......えへへ」

スピネルがちょっと照れている。かわいい。

「あ、そういえば姉さま。信頼といえば」
「ん?どうしたの?」
「いえ、あの人のこと、どう思いますか?」

あの人。ああ、モネさんの事か。
そうだね、不思議な人だったな。最初は神とか言ってたし。
でもヘンな事は言うけど、悪い人じゃないと思う。

「そう......ですよね。姉さまならそう言うと思ってました」
「そういうスピネルはどう思ってるの?」
「え、ええとですね。実はさっきまでまだあの人のことを疑ってたんですけど......
姉さまの意見を聞いて、決めました。わたしもあの人のこと、信じてみようと思います」

スピネルはそう言った。よかったねモネさん。
わたしはうん、と笑顔で頷いた。

彼が何をしにこの街へ来たかはよく分からない。彼の不自然な言葉の言い回しの真意も不明だ。
でも、まずは信頼して話をしよう。それからだと思った。

「そ、それじゃ、わたし、先に休ませてもらいますね。
姉さまも、あまり遅くならないように、降りてきてください。
それでは、おやすみなさい」

そう言って、スピネルは屋根から降りていった。
おやすみ。そして、また明日......

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